作家として活躍する卒業生インタビュー
研究科美術專攻 工芸研究領域(刺繍) 修了
私たちの物づくり、
伝えたい日本刺繍の心
作家活動のきっかけと、作家として活動してみての感想を教えてください。
近年和装離れ、高齢化に伴う職人の後継者不足の問題から日本の伝統技術である「本物の日本刺繍」を見て触れる機会が少なくなっています。
一般的に敷居の高い「日本刺繍」を身近に置いて使える作品にすることで、「本物の日本刺繍」を身近に感じて頂きたいと思いを込めて、制作活動をしています。
実際に取り組まれたお仕事と現在の主な活動内容を教えてください。
「文化庁中央区伝統文化親子教室事業〜日本刺繍親子体験教室〜」等で子供向け日本刺繍講座を実施。本学非常勤講師。「日本刺繍」を通して「日本文化」も伝えています。
工芸専攻を選択し、今に至った経緯を教えてください。
高校生の時に、初めて「工芸」に触れる機会がありました。今まで、絵を描いて終わりだった事が、使える「モノ」になった時今までとは違う視点で日常から使用している「モノ」に魅力を感じるようになりました。
美しいパターンの壁紙に、繊細な刺繍の洋服、綺麗な形の器、身の周りにはこんなにも素晴らしい美術品があるのだと気付かされました。工芸専攻に進学してから、一から人の手で作り上げる「モノ」作りの大変さや難しさを学びました。機械化が進む現代に置いて、自分が感じた工芸の魅力を多くの人に感じてもらえるような作品を作りたいと思うようになりました。
学生生活のなかでのターニングポイントを教えてください。
「日本刺繍」との出会いは人生を大きく変えてくれました。繊細でありながら力強く、1mm単位で作り上げる世界は、元々細かい作業が好きだった私に合っていてこんなにも楽しい緻密な世界があるのだと教えてくれました。
授業では日本の伝統文様や文化を同時に学びました。日本刺繍と密接に関係しているからこそ作品に取り入れ、また、日本の伝統を大事にしていかなくてはならないという気持ちが生まれ、伝統を取り入れながらも、新しく自分らしい作品を制作していきたいと思いました。
また、配色や色彩文化を学ぶ中で、色彩にも興味を持つようになり、今まで、感覚的に選んでいた色に意味を持たせる重要性に気づきました。意味を持った色を取り入れる事で、作品により深みが増し、技術やデザインだけではなく色を魅せる作品づくりを心掛けるようになりました。
大学院に進学したことが今の活動にどう活きていますか。
日本刺繍をする上で、欠かせない針などの道具をつくる職人の減少や、機械化が進む日本刺繍の現状を知りました。多くの人に日本刺繍の魅力を伝える事が、刺繍文化を残していく為に必要である事だと考えました。
進学してから、ワークショップや講座の助手を通して、日本刺繍を教える難しさや楽しさを学ぶと同時に、魅力を知ってもらえる喜びを感じました。
現在では、講師として未来の担い手である子供や本学の学生に、日本刺繍の魅力を伝え、この現状が少しでも良くなるよう活動を行っています。
修了制作では、身の周りにおける美術作品として、これまでの着物や帯だけではなく、持ち歩けるバッグやスカーフなどの服飾品に刺繍を展開することを思いつきました。
バックへの展開は現在の作品制作にも繋がっています。
今後について、どんなことを考えていますか?
伝える(指導する)事と作家活動、この2つを通して、日本の伝統技術である日本刺繍の普及、そして、自分が感じた魅力を多くの人に伝えていけるよう活動を続けていきたいと思います。
※2023年時点のインタビューです。