就職して活躍する卒業生インタビュー

interview 02

幸道 萌香
染織文化財修理技師
幸道 萌香
2020年 株式会社染技連入社
2020年 学部 刺繍卒業

探究心と技術の研鑽で、
後世に文化財を遺す

入社のきっかけと、入社後の感想を教えてください。

大学で四年間学ぶ中で刺繍が大好きになり、一生の仕事にしたいと強く思うようになりました。どうにか刺繍に関わることのできる仕事がないかと探していたところ、幸いにも先生にご紹介いただいて入社することになりました。

制作風景
制作風景

入ってみての感想を教えてください。

文化財修理について何も知らないままの入社だったため、初めのうちは訳もわからないまま、指示に従うだけで精一杯でしたが、作品に触れて仕事をしていく中で少しずつ出来ることが増え、今は入社時よりも色々なことを考えた修理ができるようになっていると思っています。
美術館や博物館などで展示されるような着物やタペストリー、お寺などの懸想品など様々な作品を扱っています。 扱う作品の多くは私よりも前にうまれて何百年も大事にされてきて、私が死んだ後もまた他の誰かの手によってさらに何百年も存在し続けます。大事にしたいという多くの人の想いによってここまで伝わってきた作品を、できるだけ良い状態で今後も伝え残していかなければなりません。同じ形状、素材、時代に作られた類似の作品であったとしても、保存されてきた環境などにより作品の状態が異なります。そのため修理の方法、材料選び、作品の扱い方、全てにおいて修理する作品に最も適したものを選ぶ必要があります。修理のために一針さす、修理裂をあてる、その小さな動作一つ一つに作品を損傷させる危険があり、作品の将来を決める可能性があります。私の関わった修理がその作品を長く存在させる手助けになることができたかは何十年、何百年も経つまで分かりません。私が一年かけた修理も作品にとっては長い歴史のほんの一瞬で、作品に関わってきた沢山の人たちの中の1人でしかありません。ですが、一つの作品が修理を終え、修理前よりも安定した状態になった時の安心感は言葉に尽くせません。また、所蔵者様の前で修理後の作品を広げた際にでる感嘆を聴くと、とてもほっとするのと同時に、作品と二人三脚で頑張ってきたことを思い、少し誇らしげな気分にもなります。

制作風景

女子美で学んだことは、どのように活きていますか?

染織品の文化財修理には主に日本剌繍の技法を用いるため、基礎的な技術面が活かされています。それ以外にも染織に関する知識、修理材料の染色技術や、色選びの方法、PCスキル等も活かされていると感じます。女子美での学びが無ければ、仕事に馴染むためにもっと時間が掛かったと思います。また、そもそもこの仕事に就こうと考えなかったというのが一番大きいです。

今後について、どんなことを考えていますか?

今は自分の経験不足や知識不足を痛感しているので、様々なことに興味を持って学び続けなければならないと思っています。日頃の仕事の中でも多くのことを学んでいますが、そこで満足せず、より良い修理を目指した堅実な仕事をさせていただけるように、日々精進したいです。
また、引き出しを増やすための一つとしても、自分のためにも、作品制作も行っていきたいと思っています。幸いにも職場の染色道具や場所を借りたり、材料を購入させていただけるとても恵まれた環境にあります。仕事と制作を両立させるのはなかなか難しいですが、どちらも長く続けていきたいです。

※2023年時点のインタビューです。