染 院生作品

中田 百霞

『形のない光の景色』

光とは、物質ではない。視覚でしか捉えることのできない曖昧でつかみ所のないものである。光が照らし出す景色は、その場や瞬間に立ち会わなければ見ることのできないものである。現代では多くの視覚的情報やイメージが氾濫しているが、そこにある美しい画像よりも、目の前に見える光に照らされた景色は、私の心に強く印象を残すのだ。この印象は記憶の中で徐々に輪郭を無くし、光のイメージが構成する「光景-光の景色」となる。目の前の光景が持つ力強さ、それが時間によって移ろう表情の儚さが、一期一会の感覚に共通するものがあると感じた。そこで「光の景色」をテーマに、人が交流する場をさらに引き立たせ、彩る作品を作り上げた。制作ではグラフィックの色彩や表現の自由さと、主体となる布地とは異なる銀箔や顔料といった異素材のテクスチュアを組み合わせた造形表現を用いている。レイヤーを重ね、透かすことで平面の中に空間を創造し、異素材による加飾を行い、その空間にテクスチュアを加え物質的な質感を表現した。
私はテキスタイルの魅力を、場の雰囲気を変化させたり人に寄り添いその気持ちを変えることが出来るものだと考えている。空間にあることで、人々の出会いや交流のひとときを鮮やかに演出する作品としたい。

『月映』-つきばえ-

昇華転写・箔押し | 縮緬布・銀箔 | 190×190×5cm 2点

月明かりの下で照らし出される土、葉、水の呼吸や動きを表現した。動く土、揺れる葉、流れゆく水が持つ生命の力強さを水平の構図を用いることで表し、銀箔を画面上に散らすことで揺らぐ月の光と自然の情景を作り上げた。屏風という形態をとり人々が交流する空間に開くことで場を演出する。

『煌輝』-こうき-

昇華転写・箔押し・手捺染 | ポリエステル布、銀箔、顔料 | 1000×140cm 2点

色鮮やかに瞬く都市のネオンの光を連想している。光は人々の活気をイメージしており、昇っていくような縦の構図でこれを捉えた。さらに銀箔を大きく大胆に用いることで人が持つ生命の瞬きを表現している。高く伸び上がる形態は場の中心的な存在となり空間を華やかに演出する。